帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

「それに私は琴子を好いている。想う娘が他の男に嫁ぐなど、許せるわけがなかろうが!」

 最後の言葉だけは声を荒げ、朱縁は二人の頭を床に叩き付けた。
 ゴッと音がして床がへこみ、流石に父達を少々心配してしまう。
 だが手加減はしたのだろう。おそらく朱縁の本気の力であれば床など割れていただろうから。
 気を失ったのか父と真継はそのまま動かず、静かになったことで場は収まった。
 シンとした屋敷の廊下に、今まで床に這いながら一部始終を見ていた利津の声が響く。

「床、修繕しなければなりませんね」

***

 琴子の父・勝正と、桐矢の若君・真継の守護鬼屋敷への不法侵入は大々的に報じられた。
 その記事の中には守護鬼の伴侶が見つかったこと、櫻井の鬼花の本来の役割などが事細かに記されており、財界人のみならず平民にも琴子の存在が知れ渡ることとなった。
 とはいえ鬼の屋敷に群がるような奇特な者はおらず、琴子は今まで通り穏やかに過ごしていた。
 だが、渦中の櫻井と桐矢の家はそうも行かなかったらしい。
 真継は一先ず蟄居(ちっきょ)を命じられ今後の昇進は怪しいだろうと噂され、父に関しては後継に代替わりせよとの勅令を頂いたのだという。
 それらの騒動も多少落ち着いてきた頃、櫻井家の新当主として琴子の兄・藤也が挨拶に訪れた。
 朱縁の屋敷にて対面した兄は、朱縁の側にいれば異性と同じ部屋にいても琴子の気分が悪くならないと知り安堵していた。

「良かった。これからは朱縁様がいらっしゃれば普通の兄妹として接することが出来るのだな」

 柔らかな笑みを浮かべた藤也は、どうやら昔琴子に触れてしまったことで怖がらせてしまったことをずっと気に病んでいたらしい。
 琴子にとっては何を考えているか分からない兄だったが、存外妹思いだったらしい。
 父に娘として見られていなかったことに衝撃を受けていた琴子は、兄からの家族の情に救われる思いがした。
 お互いに笑みを交わした後、藤也は改まって朱縁に向き直り頭を下げた。