帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

(気持ちが悪い。怖い……助けて)

 声もろくに出せぬほどの琴子は、自力ではどうにも出来ない状況にただ助けを求める。
 脳裏に浮かぶのは銀糸の髪と紅玉の瞳を持つ美しい鬼。
 誰よりも優しく自分に触れる、孤独なひと。

「朱縁、さま……」
「琴子!」

 かすかな、零れ落ちるような声でその名を呼ぶと、応えるように呼び返された。
 幻聴だろうかと思うが、次いで触れる優しく大きな手。
 すぅ……と、途端に軽くなる気分の悪さ。
 吸い込んだ香りは、口づけをされたときと同じもので。

(ああ……帰って来て、下さったのね)

 喜びに、先ほどとは違う涙が零れる。
 急いで来てくれたのだろう。
 肩で息をしている朱縁は琴子の肩を抱き、その腕を掴んでいる真継の手をギリリと握りしめていた。

「ぐ、ぐあっ!」

 痛みに琴子の腕を離した真継は、そのまま朱縁によって突き飛ばされる。
 父の元まで飛ばされた真継は、掴まれていた腕に手を当て痛みに歪んだ顔を朱縁に向け睨み付けていた。
 その様子を見ていた父は焦りを抑えたような笑みを浮かべる。

「朱縁様、琴子を返していただきたい。その子はこの真継殿に嫁がねばならぬのです」
「返す? 何を言うか。琴子は私の妻だ」
「で、ですが今までも鬼花となった櫻井の娘は朱縁様と離縁して他の家に嫁いでいきました。琴子だけ違うようにとは――」
「帝都を守護するという契約は琴子という存在を見つけるためのものだ。その説明は帝からもされているはずであろう?」

 父の言葉を遮り淡々と話す朱縁は、「それに」と続ける。