帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

「こと、こ……さま。お逃げ下さい」

 利津の苦しげな声にハッとし顔を上げると、廊下の端で床に這いながらこちらに来ようとしている利津の姿が見えた。
 その額には封邪師が使う封じ札と思われる紙が貼られている。

「流石に邪気とは勝手が違うか。だが、本質は似たようなもの。札は効いているようだな」

 利津を軽く顧みた真継は、すぐに琴子へと視線を戻す。

「数珠を外せない以上仕方あるまい。触れれば正気を失いかねないというが、死ぬ訳ではないだろう」
「っ! ぃやっ!」

 腕を掴まれ、すでに吐き気をもよおすほどに不快であった琴子は必死に振りほどこうと暴れる。
 だが、男の――しかも軍人でもある真継の力になど敵うわけが無く無理矢理立ち上がらせられてしまった。
 それでも抗おうとする琴子に、父の叱責が飛ぶ。

「大人しくせい、琴子。離縁出来ぬお前が悪いのだ、子作りの間くらい耐えて見せろ」
「お、とうさま……?」
「子が出来さえすれば良いのだ。お前の価値など、強い異能持ちを産むことだけであろう」
「なっ……」

 あまりの言いように胃の腑が喉元にせり上がるような気持ち悪さを感じた。
 異性に触れれば正気を失うというのに、それほどのことを耐えろと言うのか。
 子を産むことだけが自分の価値だと言う父に、怖気が走る。
 厳しくはあっても親子の情はあると思っていたのに、産む道具としか見ていない父の言動に涙が零れた。