ふらふらと歩いていたら、迷子になった。

(この歳で迷子とか、ないだろ)

右を見ても左を見ても、草と木しかない。
小石の山は“結界(けっかい)”を表していて、そこを越えるとセキコの領域の外になると聞かされていた。

(でも、そんな小石の山なんて、見てないし)

見逃した可能性は否めないが、それでもまだ、領域外とは限らない。

歩いていれば来た道にたどり着くだろうと、安易に考えていたのは最初のうち。
やがて陽が傾き始めると、美穂の胸中は穏やかではなくなった。

「さ、猿助、いない……?」

物は試しと声をかけてみたが、反応がない。

(付いて来てないの? あのサル、使えないんだけど!)

自分で拒んでおきながら、美穂は八つ当たりぎみに内心で文句をいう。
昨日、セキコから聞かされた話を思いだした。

「“結界”の向こう側には行かないようにね。
アンタに害を為す『物ノ怪(もののけ)』がいないとも限らないから」