菊乃はそのまま切神の屋敷で生活をするようになっていた。
時折屋敷で取れた野菜や果物を持って村へ下りていき、そのときだけ本来の自分の家で寝ている。

村には菊乃と同年代の千桜も冴子もいなくなってしまって寂しかったのだと、菊乃はもらしていた。
「最近村の様子がなんだか変なの」

それは菊乃が村から戻ってきたときにつぶやいた言葉だった。
「変って、なにが?」

夕食の支度を進めながら薫子が質問する。
今日の献立はだいこんの漬物とカブの味噌汁。

それに夏野菜の天ぷらだった。
「みんな元気がないっていうか。もしかしたらここへ縁切りを頼みにくる人が増えるかもしれない」

「そうなんだ?」
そのときの会話ではなにもわからなかったけれど、菊乃が心配していた通り数日後には神社へ縁切りのお願いにくる村人たちが増えてきた。

みんな顔色が悪く、石段を上がってくるのもしんどそうにしている。
「神様どうか、村ではやっている病気との縁を切ってください」