月花は愛され咲き誇る

 日宮の若君は自動車でやってきた。
 閉ざされた月鬼の里ではほとんどの者が見たことがなく、物珍しさで一時騒然となりかける。

「静まれ! うろたえたところを見られては侮られるぞ!」

 だが、長の一喝でぴたりとざわめきが止まる。閉ざされた里故に、長の言葉は絶対でもあった。

 自動車が停まり、先に十代前半といった少年が降りてくる。
 日宮の若君は二十歳だと聞いたから、お付きの者か何かだろう。
 少年は長がいる側の後部座席のドアを開けると、深く頭を下げた。

 そこからおもむろに出てきた人物が日宮の若君。この国で最高の力を持つ火鬼の一族の次期当主だ。
 優美な物腰とその美貌に、里の者すべてが息を呑む。

 鬼は基本的に皆美しい顔立ちをしているが、彼は別格と言って良かった。
 遠くからでも分かる玉のような美しい肌。スッと切れ長な目は黒い瞳を冷たい印象に導くが、柔らかそうな微笑みがその印象を和らげてくれる。
 光が当たると少し赤く見える黒髪は清潔そうに整えられていて、全体的に洗練さを見せつけた。
 若君の佳麗(かれい)さに、長ですら一時言葉を失う。

「大勢での出迎え、感謝します。私が日宮の次期当主、日宮燦人(あきと)です。この度は我が一族の願いを聞き届けてくださり、ありがとうございます」

 力も権力も燦人の方が上なのだが、相手が一族の長ということもあってか少しへりくだった言い方をしていた。
 ただ、それでも彼の威容(いよう)は変わりなかったが。