「ちょっと、昨日助けてもらったお礼をね。駅前のケーキ屋さんで出しているフィナンシェなんだ。後で食べて」

 そう言って紙袋を差し出され、思わず受け取る。

「え? そんな、お礼なんて。大した事していないのに」

 事実、少しの間額に手を当てていただけだし。

 わざわざこんなお礼をもらうほどのことじゃないと思う。


「大したことだよ、本当に助かったんだから。キミに喜んでもらいたくて買ってきたんだ。お願いだからもらって?」

「う……はい。ありがとうございます」

 お願いまでされてしまったら受け取らないわけにもいかない。

 それに、フィナンシェはわたしの大好きなお菓子の1つだから実は本気で嬉しかったりする。


 紙袋の口をちょっと開けてみて中を見ると、ふわりと甘いバターの香りがした。

「……おいしそう」

 思わずつぶやいて口元を緩めると、クスッと笑う声が聞こえる。

 笑われちゃった!?


 食いしん坊だと思われたかな? と少し恥ずかしい気持ちで見上げると、ふんわりとしたフィナンシェのような甘い微笑みが向けられていた。

「瀬里さんって本当に可愛いね。やっぱり諦めるには惜しいなぁ」

「え!? か、可愛いって!?」

 つい動揺してしまったけれど、すぐにまた小動物扱いされているんだと思い直した。