「那岐、ダメだ」

 背中の方に来たから表情が見えない。

 ちょっと硬い声のようにも聞こえるけれど……。


「へぇ……風雅が女の子に触れてるの珍しいなって思ってたけど……瀬里さんが最近噂になってる風雅のお気に入りの子なんだ?」

 山里先輩の表情も見えないけれど、のほほんとした声の中にも楽しそうな様子が感じとれた。


「うーん。風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ……どうしよう?」

「いや、諦めろよ」

 悩んでいる山里先輩に風雅先輩は淡々と言い放つ。

 わたしは今がどんな状況なのかもよく分からなくて困り果てていた。


 えっと……何だかわたしを取り合っている、みたいな状況に思えるんだけど……。

 まさかそんなわけないよね?


 そう思いつつも、いまだに離されていない風雅先輩の手が温かくて……ドキドキする鼓動が収まってくれなかった。