なおさら信じられない気持ちで見ていると、彼は水面を歩いて岸につく。

 そこに里の長だというおじいさんが近づいて、何だか難しい挨拶をしていた。

 それに鷹揚(おうよう)にうなずいた彼は、ぐるりと周囲を見回しわたしとお母さんに目を留める。

 途端にふわりと優しい笑顔になった。


「理子」

 近づいてお母さんの名前を呼ぶ彼に、お母さんも「穂高さんっ」と嬉しそうに駆け寄る。

 そのまま人目もはばからず抱き合う二人にちょっと見ているこっちが恥ずかしくなった。


 でもお母さんはずっとお父さんに会いたがっていたから、そういう意味では本当に良かったなって思う。


 そのままお母さんといくつか言葉を交わして、その緑の目がわたしに真っ直ぐ向けられる。

 ドキッ

 いまだ神々しさを身にまとっているその人がお父さんだとは信じられなくて、緊張してしまう。


 お母さんと一緒に近づいてきて目の前に立つ彼は、ぎこちなく口を開いた。

「その、美沙都……大きくなったね」

「えっと……はい」

 どう対応するのが正解か分からなくてこっちもぎこちなくなってしまう。


「えっと……抱っこしてもいいかい?」

「は――え?」

 はいって言いそうになったけれど、抱っこ?

 父親に抱っこ……は、流石に恥ずかしい。