風雅先輩と初めて会った祠のある池。

 その水面が、風も吹いていないのに揺れた。


 中心から広がる波紋。

 池の底の方から何か光るものが浮いてきたと思ったら、人の頭が出てきた。


 わたしとお母さん、そして風雅先輩と山里先輩。
 あとは里の長だというおじいさんや何人かの里の重役の人達。

 みんなが見守る中、その人は――この里を守る山の神は池の水面に立つように現れる。


 その光景が、わたしは童話に出てくる女神様みたいだと思った。

 まあ、目の前にいるのは女神様じゃなくて男の神様だけれど。


 真っ白なストレートの髪は長くて、白い布を巻きつけたようなズルズルした服装をしている。

 不思議なことに、水の中から出てきたのに髪も服も一切濡れていなかった。


 目を閉じている状態でも分かるイケメンさに、わたしは信じられないと目を丸くする。

 この人が、わたしのお父さんなの?

 不思議な気分だった。


 瞼が開き、風雅先輩よりも深くて濃い緑色が現れる。

 その途端神々(こうごう)しさが増した気がした。


「……みんな、待たせてしまったね」

 明らかに男の低い声なのに、どこか中性的にも聞こえる。

 そんなところも神様っぽい感じがした。