優しく甘い笑顔は、わたしを少しは女の子として大事に思ってくれているからなんじゃないかって思ってた。

 期待しないようにとは思っていても、やっぱり好きな人だからいつの間にか期待していたみたい。

 でも、それは使命だったから――守るべき相手だったからってだけかも知れない……。


 小学生のときは勘違いして、ただただ恥ずかしいと思った。

 でも今は、ひたすら苦しい。


 そっか、これが人を好きになるってことなんだね……。


 恋の苦しさに、わたしは胸元をギュッと掴んだ。

***

 コンコン

「美紗都? コタちゃんから起きたって聞いたわ。入ってもいい?」

 ノックの後にお母さんの声が聞こえた。

「うん、いいよ」

 お父さんのことを話してくれるんだよね、きっと。


 その予想は当たっていて、部屋の中に入ってきたお母さんはすぐに本題に入った。

「お父さんのこと、黙っていてごめんなさいね。人間の街で生活するなら、大して人間と変わらないサトリだってことにしておいた方が馴染めると思ったの」

 里に戻って来て、わたしがここの生活に慣れて来たら伝えようと思っていた、と話してくれる。


「……お父さんは、眠っていたから会えなかったの?」

 山の神はこの十二年眠っていると聞いた。

 十二年前といえば、丁度わたしが里を出たころでもある。