途中、道が混雑しており、裁判所に着いたのは開廷時間の直前であった。
(これが裁判所なんだ……)
アメリカの裁判所もドラマなどで観た事があるが、実際に行くと荘厳とした空気が裁判所内を満たしていた。
「こっちよ」
ジェニファーに案内されて法廷内に入ると、既に楓さんや所長は席に着いており、相手方の弁護士と思しきスーツ姿の人や裁判官、陪審員もそれぞれ自分の席に座っていたのだった。
まばらながら傍聴席にも人が座っていたので、邪魔にならない様に空いている席に腰掛けると、その直後に裁判が開廷したのだった。
早口の英語が交わされる裁判は全く内容が聞き取れなかったが、時折、ジェニファーに通訳して貰う事でなんとか理解出来た。どうやら、裁判は所長と楓さん側が有利に進んでいるようだった。所長と共に相手の弁護士に反論する楓さんは普段の姿とはまた違い、法廷内の誰よりも魅力に溢れていた。
そんな水際立った楓さんに目が惹かれる反面、さっきのジェニファーの話が引っかかって胸が苦しくなる。
そして裁判は終始楓さん達の有利のまま閉廷し、次の法廷で判決が出るとの事だった。
楓さん達は今日の裁判の後片付けや次の裁判に向けた用意があるらしいので、一足先に裁判所を出たところで、「せっかくならお茶しましょう!」とジェニファーに誘われたのだった。
ジェニファーに教えてもらいながら、初めてニューヨークの地下鉄に乗ると、セントラルパークの近くまで戻って来る。駅から歩くと、ジェニファーがオススメする美術館に併設するカフェにやって来たのだった。
「ここのザッハトルテは絶品なのよ! 夕方に来ると売り切れている事が多いんだから!」
明るく高い天井と高級感のあるヨーロッパ風の内装、優雅なクラシック音楽が流れているカフェは昼時という事もあり、老若男女問わずそこそこの人で賑わっていた。カフェの隣にはミュージアムショップがあるようで、美術館に展示されている絵画や画家の画集や解説本、グッズが売られているらしい。
渡されたメニューはほとんど読めなかったので、ジェニファーにお願いして、オススメと話していた二人分のザッハトルテとダージリンティーを頼んでもらったのだった。
「美術館は二階にあるの。無料開放の日もあるんだけど、その日は外まで並んでいるのよ」
「へぇ〜。そうなんだ」
「良かったら、カエデと一緒に来てみて。コハルにもこの国を好きになってもらいたいの。私やパパが日本が好きな様に」
カエデ、という単語に胸が苦しくなる。気づいたら、「あのね……」と口を開いていたのだった。
「楓さんが担当したっていう、労働問題に関する裁判。あれ、もしかしたら私の裁判かもしれないんだ
……」
「そうなの?」
「うん。楓さんと出会った時に働いていた職場でちょっと色々あって。その時に楓さんに助けてもらって、その縁で結婚したの。でも……」
その時、ザッハトルテとダージリンティーを持った男性店員さんがやって来たので、話を一度中断する。テーブルの上にザッハトルテとダージリンティーを置くと、男性店員さんはすぐに去ったのだった。
「もしかして、カエデと上手くいっていないの?」
白い陶器のティーカップに口を付けたジェニファーに、私は小さく頷く。
「上手くいってない訳じゃないの。でも、楓さんは一人でニューヨークに行っちゃうし、それ以前に、一人でなんでも出来るし、もしかして楓さんにとって、私の存在って必要ないのかなって。どうでもいい存在なのかなって思えてきて……」
「そんな事はないわ!」
勢いよく叫んだジェニファーの声がカフェ内に響いた。カフェに居た他の人達は、一瞬だけこっちを見たが、すぐに自分達の話に戻ったのだった。
(これが裁判所なんだ……)
アメリカの裁判所もドラマなどで観た事があるが、実際に行くと荘厳とした空気が裁判所内を満たしていた。
「こっちよ」
ジェニファーに案内されて法廷内に入ると、既に楓さんや所長は席に着いており、相手方の弁護士と思しきスーツ姿の人や裁判官、陪審員もそれぞれ自分の席に座っていたのだった。
まばらながら傍聴席にも人が座っていたので、邪魔にならない様に空いている席に腰掛けると、その直後に裁判が開廷したのだった。
早口の英語が交わされる裁判は全く内容が聞き取れなかったが、時折、ジェニファーに通訳して貰う事でなんとか理解出来た。どうやら、裁判は所長と楓さん側が有利に進んでいるようだった。所長と共に相手の弁護士に反論する楓さんは普段の姿とはまた違い、法廷内の誰よりも魅力に溢れていた。
そんな水際立った楓さんに目が惹かれる反面、さっきのジェニファーの話が引っかかって胸が苦しくなる。
そして裁判は終始楓さん達の有利のまま閉廷し、次の法廷で判決が出るとの事だった。
楓さん達は今日の裁判の後片付けや次の裁判に向けた用意があるらしいので、一足先に裁判所を出たところで、「せっかくならお茶しましょう!」とジェニファーに誘われたのだった。
ジェニファーに教えてもらいながら、初めてニューヨークの地下鉄に乗ると、セントラルパークの近くまで戻って来る。駅から歩くと、ジェニファーがオススメする美術館に併設するカフェにやって来たのだった。
「ここのザッハトルテは絶品なのよ! 夕方に来ると売り切れている事が多いんだから!」
明るく高い天井と高級感のあるヨーロッパ風の内装、優雅なクラシック音楽が流れているカフェは昼時という事もあり、老若男女問わずそこそこの人で賑わっていた。カフェの隣にはミュージアムショップがあるようで、美術館に展示されている絵画や画家の画集や解説本、グッズが売られているらしい。
渡されたメニューはほとんど読めなかったので、ジェニファーにお願いして、オススメと話していた二人分のザッハトルテとダージリンティーを頼んでもらったのだった。
「美術館は二階にあるの。無料開放の日もあるんだけど、その日は外まで並んでいるのよ」
「へぇ〜。そうなんだ」
「良かったら、カエデと一緒に来てみて。コハルにもこの国を好きになってもらいたいの。私やパパが日本が好きな様に」
カエデ、という単語に胸が苦しくなる。気づいたら、「あのね……」と口を開いていたのだった。
「楓さんが担当したっていう、労働問題に関する裁判。あれ、もしかしたら私の裁判かもしれないんだ
……」
「そうなの?」
「うん。楓さんと出会った時に働いていた職場でちょっと色々あって。その時に楓さんに助けてもらって、その縁で結婚したの。でも……」
その時、ザッハトルテとダージリンティーを持った男性店員さんがやって来たので、話を一度中断する。テーブルの上にザッハトルテとダージリンティーを置くと、男性店員さんはすぐに去ったのだった。
「もしかして、カエデと上手くいっていないの?」
白い陶器のティーカップに口を付けたジェニファーに、私は小さく頷く。
「上手くいってない訳じゃないの。でも、楓さんは一人でニューヨークに行っちゃうし、それ以前に、一人でなんでも出来るし、もしかして楓さんにとって、私の存在って必要ないのかなって。どうでもいい存在なのかなって思えてきて……」
「そんな事はないわ!」
勢いよく叫んだジェニファーの声がカフェ内に響いた。カフェに居た他の人達は、一瞬だけこっちを見たが、すぐに自分達の話に戻ったのだった。