店の外で待っていた楓さんと来た道を戻って行くが、履き慣れないパンプスとでこぼこして歩きづらい道に足を取られて、何度か転びそうになってしまう。そうしている内に、先を歩いている楓さんとの距離が開いてしまったのだった。

「小春?」

 途中にある横断歩道を渡った楓さんは、まだ横断歩道を渡っていない私に気づくと、戻って来てくれる。

「すみません。パンプスが履き慣れないからか、何度か転びそうになっている内に足が遅くなってしまって……」

 話している内に信号が赤に変わってしまったので、そのまま二人で信号を待つ。

「いや。俺も気付かなかった。手を繋ごう。これなら遅くならないだろう」
「でも、楓さんも歩くのが遅くなりますよ?」
「今はデートだ。こういうのは男が合わせるものだろう」

 そうして、差し出された楓さんの手を取るが、すぐに楓さんが指を絡めて来たので、手を二度見してしまう。

「普通に繋がないんですか……?」
「……デートだと言っただろう」

 そのまま、信号が変わるのを待っていると、私達の後ろで信号を待っていたオシャレな格好をした若い男女に声を掛けられる。

「Are you lovers? It suits you!」
「No. We are a married couple」

 楓さんが英語で返すと、男性はヒューと口笛を吹き、女性はニヤニヤと意味ありげに笑う。何を言われたのか、楓さんを見上げると、また赤い顔をしていた。
 なんだか、今日の楓さんはいつもより表情が豊かな気がする。
 私の視線に気づいたのか、楓さんは顔を近づけると、耳元で囁いてきたのだった。

「貴方達は恋人か、と聞かれたんだ」
「それで、何と返したんですか?」
「夫婦だと返した。当然だろう」

 当たり前の様に「夫婦」と言われて、私も顔が赤くなる。その時、ようやく信号が変わったので、私達も信号待ちをしていた人達の流れに乗って、横断歩道を渡ったのだった。

「そうだ。行きたいところが無いなら、セントラルパークでランチにしないか。今日は天気も良い、近くの店でテイクアウトして、シープ・メドウに持ち込もう」
「シープ・メドウ?」
「ピクニックエリアの事だ」

 楓さんの言う通り、今日はからっとした快晴なので、緑溢れるセントラルパークで食べたらきっと気持ち良いだろう。

「良いですね」
「決まりだな。食べたい物を見つけたら教えてくれ。俺が支払う」

 どこか得意げに笑った楓さんに手を引かれて、私達はセントラルパークに向かったのだった。