アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

 クシャースラは、オルキデアの幼馴染みであり、かねてよりお付き合いをしていたセシリア・コーンウォールと結婚する事になったのだった。


------------------------- 第101部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
おれから見た親友【5】

【本文】
 セシリアと出会ったきっかけは、士官学校を卒業した年に、父親が急逝して喪に服していたオルキデアの様子を見に、彼の屋敷を訪ねた事だった。

 冬のある日、休暇を取ったクシャースラは王都の貴族街の端に住むオルキデアの実家であるラナンキュラス家を訪ねた。
 その年の夏の終わりに、オルキデアの父親は職場で倒れて、そのまま息を引き取った。
 知らせを受けたオルキデアが病院に着いた時にはまだ息はあったらしいが、その後すぐに息を引き取ったそうだ。

 オルキデアはその次の日から、父親の葬儀や相続の手続きの為、しばらく軍を休んでいた。
 オルキデアの母親は、屋敷を不在にしていると聞いていた。
 その代わりに、父親が懇意にしていたとある貴族の力を借りて、オルキデアは葬儀の全てを取り仕切ったらしい。
 新兵だったクシャースラはなかなか休む事が出来ず、またオルキデアとは別部隊に配属されたのもあって、オルキデアの父親が亡くなった話も随分時間が経ってから聞いたのだった。

 ようやくオルキデアに会いに行けたのは、冬になった頃だった。
 仕事に復帰したオルキデアだったが、父親の遺品整理の為に、休暇の度に屋敷に帰っていた。
 この頃になると、遺品の整理が追いつかない事を理由に、数日ずつまとまった休暇を取るようになった。
 当時のオルキデアの上官も、父親が亡くなったばかりで大変だろうと、オルキデアが数日間屋敷に帰って、遺品を整理しつつ、喪に服すのを許可していた。

 母親だけでなく、屋敷には使用人もいないと聞いていたクシャースラは、そんなオルキデアが心配になって、様子を見に行った。
 屋敷の場所は、オルキデアと同じ部隊に所属している同期に聞いた。
 貴族街でも端にある平民街のすぐ側に屋敷があると。
 ーー親父さんが亡くなって、さぞかし悲しんでいるだろうな。
 けれども屋敷を訪ねると、そこにはいつも通りに見えるオルキデアが、訝しむようにクシャースラを見つめてきたのだった。

「何しに来たんだ? クシャースラ」
 屋敷の門前で出迎えてくれたオルキデアは、くたびれたシャツとズボンの上に、適当にコートを羽織っただけの姿であった。
「お前さんが心配で様子を見に来たんだが……。どうやら、必要無かったようだな」
「屋敷の場所は同期に聞いた」と言うと、「そうか」とだけ返される。
「何か手伝える事はあるか? 今日一日は空いてるから手伝うよ」
「もう整理は殆ど終わっている。父上の職場から私物を運び込むのに時間がかかっただけだ。
 急に亡くなったから、父上の私物が職場に置いたままになっていたのをすっかり忘れていたんだ」

 オルキデアの父親であるエラフ・アルバ・ラナンキュラスと、クシャースラは一切面識がない。
 だから、オルキデアやエラフを知る者たちの話しからどういう人物だったのか推察するしかなかった。
 ただ、オルキデアという息子を育て上げた以上、立派な人格者だったとクシャースラは考えている。

「お父上の職場って……」
「父上は文官だったんだ。国務大臣付きのな」
 泊まり込みが多い国務大臣付きだっただけあり、エラフは着替えや一部日用品などの私物を職場に置いたままにしていた。
 それを引き取りに来るように、オルキデアに連絡が入って、数日に分けて取りに行っていたらしい。