「明彦君、何してるの?

そんなに強く抱きしめられたら、リリーは苦しいよ。

息ができなくなっちゃうよ」



僕はリリーのその言葉で、リリーを強く抱きしめていることにようやく気づき、リリーを抱きしめている腕の力を抜いた。



するとリリーは起き上がり、いつもと変わらぬ明るい笑顔を僕に向けた。



回復薬の効果はてきめんだ。



さすがは偉大な魔力が込められた薬だと、僕は回復薬のすごさを実感していた。



そしてリリーが回復して僕がホッとしたそのとき、ぶつかり合う剣の音に気づいたリリーが、ブライアンとダーギルの戦いに目を向けた。



ブライアンとダーギルは変わらず互角で、異次元のものすごい戦いを続けていた。



リリーはそんなブライアンを見て、優しい声でつぶやいた。



「やっぱりブライアンは強いね。

さすがはリリーたちのリーダーだよ。

あれでさ、カッコつけで浮気性なとこを直せば、もっとすごいリーダーになれるのにね」



リリーはブライアンを少しだけディスりながらも、ブライアンの見とれるような戦いを見つめていた。



電光石火の剣で敵に迫るブライアン。



リリーはきっと誰よりも強いブライアンが好きなんだと僕は思った。



リリーの気持ちはわかりやすい。



リリーの顔を見ているだけで、リリーがブライアンのことを好きなことが、僕にも伝わってくるから。



「ブライアンとの戦いに気を取られている今なら、私たちの攻撃がダーギルに当たるはずだ。

リリー、ほんの少しでいい。

ダーギルの動きを止めて欲しい。

そのとき、私が一撃必殺の重殺剣でダーギルを斬る!」



マギーがリリーにそう言うと、リリーは小さく頷いた。



「わかったよ、マギー。

リリーがダーギルの時間を止めてみせる。

リリーならできるよ」



リリーはマギーにそう言ったあと、僕に優しい目を向けた。



「リリーがダーギルの時間を止めるために、明彦君にも協力して欲しいの」



僕はリリーにそう言われて、リリーの顔をのぞき込んだ。



「ブライアンとダーギルが離れた一瞬の隙をついて、明彦君の全力の魔法をダーギルにぶつけて欲しい。

そしたらリリーが、ダーギルの時間を止めてみせる。

できるよね、明彦君」



高速で動くダーギルに魔法を当てるのは至難の業だ。



でも、ブライアンとの戦いに集中している今なら、僕の魔法がダーギルに当たるかもしれない。



いや、絶対に当てられる!



当てなくちゃいけない一撃だから。



僕はそんなことを思いながら、強い覚悟を持って、リリーに答えた。



「わかったよ、リリー。

僕の全力の魔法をダーギルにぶつける。

僕たちの勝利のために」



僕たちの作戦は決まり、その作戦の先鋒を僕が務める。



僕は右手に魔力を込めながら、絶対に外すことができない魔法の一撃に意識を集中し始めていた。