あやかしの集う夢の中で

「桜介はデレッとし過ぎなの。

舞ちゃんが苦しんでいるかもしれないのに、嫌らしい顔してさぁ。

今はね、カノンちゃんにデレデレしてるときじゃないんだからね。

舞ちゃんのことを真剣に考えるときなんだからね」



「わかりました、愛理しゃん。

痛いからその手を放して」



桜介がそう言ったとき、愛理はようやく桜介の頬っぺたから右手を放した。



桜介はまだ痛む頬っぺたを手でさすりながら、どうして愛理はこんなにも怒りっぽいのだろうと考えていた。



愛理は一ノ瀬中学のナンバーワン美少女と言われているが、どういうわけか彼氏はいない。



それはきっと愛理の男勝りで怒りっぽい性格のせいではないかと桜介は思っていた。



愛理はたしかにキレイだけど、男子ならカノンみたいな癒し系が好きだよなと、桜介は誰にも聞かれないように心の声でつぶやいていた。



「時宗君、私はまだ夢の世界に行けるという話を信じきれていないけど、舞ちゃんを救う方法が夢妖怪を倒すことだというなら、時宗君の話を信じようと思う。

時宗君を信じることで本当に舞ちゃんを救えるなら、私は時宗君を信じて舞ちゃんを救いたい。

ねぇ、時宗君。

今の私たちにできることって、何？

私はそれを教えて欲しいの」



愛理の言葉は優しさが込もっていながらも、筋が通っていて、相手に伝わる。



そして愛理の言葉には、カノンの相手のことを全肯定して相手を気持ちよくさせる言葉とは違う種類の気持ち良さを感じてしまう。



愛理の魅力の一つには、愛理の強い意志力があると桜介は思っていた。



愛理はどんなときも他人の意見に流されない強い意志を持っているから。