「あのさぁ」



桜介が唐突に会話を始めると、愛理とカノンが桜介に目を向けた。



「オレ、舞ちゃんが言っていた悪い夢の話が気になるんだ。

あの日だって、舞ちゃんは暗い顔をしていただろ?

もしかして舞ちゃんに悪い霊とか妖怪とかが憑いているんじゃないかと思ってさぁ」



「なるほど。

さすがはオカルト部の部長の桜介君です。

カノンはその可能性を考えてませんでした」



カノンはそう言って、真剣な顔で桜介を見ていた。



カノンは人の言葉を信じやすく、誰かの意見を否定することがない。



だから突拍子もない考えを思いついたときでもカノンになら気楽に話すことができる。



オカルト部の癒し系担当のカノンは、性格のどこの部分を切り取っても癒しのオーラがにじみ出ていた。



「桜介はオカルト話が好きだからそんなこと言うけどさ、舞ちゃんの体調不良を幽霊や妖怪の仕業にするのは嫌だよ。

だって風邪とかならお医者さんでも治せるけど、幽霊や妖怪が相手なら、誰も手が出せないじゃない」



「まぁ、愛理が言いたいこともわかるけど、可能性としては考えられることだからさ。

たとえば舞ちゃんの体調不良は夢妖怪の仕業とか……」



「夢妖怪?

桜介君、それって何ですか?」



「きらびやかな夢をぐちゃぐちゃに壊して、夢を持っている人を鬱にさせる妖怪だよ。

舞ちゃんってさ、ピアニストになるっていうすごい夢を持っているじゃん。

舞ちゃんってさ、すごい才能を持っていて、いつもキラキラ輝いてるじゃん。

そういう人は夢妖怪を引き寄せるって言われているんだ。

だからさぁ……」



桜介がそこまで言ったとき、部室のドアがガラガラと音を立てて開き、オカルト部のメンバーたちは開いたドアの方に目を向けた。



そしてそこに立っている男子生徒が誰だかわかると、カノンが弾むような声でその男子生徒の名前を呼んでいた。