百合子にそれとなく(?)闘十郎に名前を伝えられた時のことを訊いてみたが「自分で考えろ」と、にべもなかった。
美穂と同じように寝床でホニャララかと思えば、そうではなかったようなので、咲耶は少し安心(?)したのだが。

「私たちは、それぞれ違う“神獣”の“花嫁”なのだ。“神力”を得るきっかけとなる『名を教える方法』は、それぞれに違うのではないか?」

肩を落とす咲耶に、百合子はそう付け加えていた。

(あーっ、よけいワケ分かんなくなっちゃった!)

百合子にすれば親切な助言だったのかもしれないが、【正解】が定まっていないものほど難しいことはない。

(………………ま、なるようにしかならないよね、きっと)

考えに煮詰まると、開き直るのが咲耶の良いところでもあり、悪いところでもある。
時と場合による『開き直り』が、今回は吉と出るか凶と出るか。まさに、神のみぞ知る、であろう。

(……に、しても……。ハクは、どこに行っちゃったんだろう……?)

日中、屋敷には居ないことが多いハクコだが、たいていの行き先は愁月のところである。しかし、今日に限っては違うようだ、とは、椿の弁だ。

咲耶が、黒虎・闘十郎への持て成しの残飯処理……もとい、おこぼれの相伴にあずかり、いつもより少しだけ豪華な夕食を終え入浴を済ましても、ハクコは屋敷に戻らなかった。

(どんなに遅くなっても、私が寝る頃には帰ってきて、人の布団に潜りこんでくるくせに……)

こんな夜更けまで、いったい何処をほっつき歩いているのだろうか?
咲耶は、母のような姉のような心情で、ハクコの所在を案じる。

(っていうか、一緒に寝るのが当たり前になってるから、隣にいないと……なんか、眠れないじゃんか)

百合子によって気づかされた想いは、恋愛感情とは少し違う。けれども。

(いないと、淋しいって、思う)

誰かから、正面きって「必要だ」などと、言われたことはなかった。

自分の代わりなど、いくらでもいる。仕事も恋人も友人も──人との繋がりはあっても、そこに「咲耶」という【個】を必要とする組織や関係など、本当の意味ではなかったのかもしれない。

自分以外の「誰か」でも、埋められる関係性──そんなものであふれた世界。そこからしたら、いまいるこの世界は、どうだろう?