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瓦礫(がれき)と化した街中。人々のうめき声と子供の泣き叫ぶ声。あちらこちらからあがる怒声と罵声は、まるで止む気配がない。

本来なら“市”が連なる長屋跡は、全焼こそ免れたものの原形をとどめていなかった。
煙がまだくすぶるそこを通り抜け辺りに目を配る。

虎次郎(こじろう)殿!」

呼びかけに振り返れば(すす)だらけの顔の男がいた。
片袖がないのは、破れたのか破いたのか。丸太のような太い腕があらわになっている。

「怪我人の収容は進んでおりますか? “国府(こくふ)”から遣わした薬師(くすし)は?」

矢継ぎ早にした問いかけに、武骨な男の顔がくもる。

「それが……救出作業に手間取っておりまして、なかなか。重傷の者もおりますゆえ……」
「では、できるだけの手当てを。煮炊きは一ヶ所で行い、救出の合間に無事の者に知らせ歩いていただきたい。
……腹が減ると、人は様々な良からぬことを為しますからね」

脳裏に浮かぶ惨状を振り払うように早口で告げ、虎次郎はふたたび辺りに目をやる。

「足りないもの必要なものは早馬を“大神社”に仕立てるよう願います。
私はいったん尊臣様の元へ戻りますが、報告を終えたらまた参りますので」

死人の報告は受けてないがこの有様では、報告がないだけで瓦礫の下には(むくろ)が増えつつあるのかもしれない。

(なぜ、いま……)

白虎が血の穢れで『まがつびの神獣(かみ)』となっている恐れがあると、愁月が“国司”と官吏に進言してきたのが三日前。
そして、昨夜未明の大地震発生。

(出来過ぎだ)

吐き捨てるように胸中でつぶやき舌打ちする。自然災害……特に、地揺れは空模様より予測が難しいとされる。それを──。

(何が狙いだ、愁月)

盗まれることを想定し、馬番にしていた武官の姿が見えず虎次郎は思考を止める。

「──……っだ、ゴラァ。やるってのか、オイ!」

耳に男の怒鳴り声が入り、事態を察した虎次郎は、声のした方向の崩れかけた壁を飛び越える。