溜息をつきながら、胸もとに垂れた赤褐色の髪を払う。
ハクコが静の美貌の持ち主なら、セキコは動の美貌の持ち主だろう。しかし──。

「うん。アンタ、なかなか可愛いじゃない。アタシ好み。ま、ミホに次いで、といったところだけど」

……この口調は、いかがなものだろうか? この立ち居振舞いも。
決してごついわけではないが、男っぽい体格をしているので、似合わない気がするのだが。

(……犬貴が口ごもったわけが、解ったわ)

「ちょっと!」

ぱちん、と、セキコが手にした扇を鳴らした。
着物同様こちらも、派手な飾り緒がついた美しい檜扇(ひおうぎ)だった。

「一方的に、アタシにばっか、しゃべらせてるんじゃないわよ。アンタ、何しにここに来たの?」

それまでの軽口をたたいていた調子を一変させ、挑むように咲耶を見るセキコに、思わず咲耶は姿勢を正す。
真意を問われてることに、気づいたからだ。

この場合、
「お招きいただき、ありがとうございます」
などという、型通りのあいさつが求められていないことは明らかだった。

当初の目的の通り「遊びに来た」と言えば、咲耶の知りたいことの半分も知らされぬまま、丁重なもてなしを受けるだけで帰されてしまうことだろう。

「私に、この世界──この国の仕組みについて、教えてください」

畳に指をついて、頭を下げる。セキコが、ふうっ……と、息を吐いたのが分かった。

「なんで、アタシに()くの? そういうことはハクか、ハクの“眷属”に訊くのが、筋なんじゃない?」

突き放すような物言いに、咲耶は顔を上げ、セキコを見た。

「ハクコには改めて【違うこと】を訊く予定です。犬貴は……都合の悪いことは、教えてくれなさそうなので」

咲耶の答えに、セキコは扇を開き口もとを隠してくくっと笑った。細めた明るい鳶色の瞳で、咲耶を見返す。

「“花嫁”としての自覚はあるわけね。
そう、【親しくなるべき】は、アタシじゃない。そして、【護ること】をはき違える“眷属”もいる。しつけ次第だけど。
どうやら、ムダに歳をくってはいないようね。
──菊、あれ」
「承知いたしました」

部屋の隅に控えていた菊が、心得たように立ち上がる。
扇を胸もとにしまい、セキコは咲耶に向かって微笑んだ。

「じゃあ、お望み通り、アタシの知る限りのこと、教えましょ」