動じることなくつむがれる答え。純然たる『正義』の危うさを感じさせるもの。

咲耶は、昼間に犬貴から言われたことを思いだす。『清き心根』と『正邪を見極める心眼』を、もたなければならない、と。

(それは、犬貴たち“眷属”に対してだけじゃない、きっと、和彰に対しても同じことが言えるんだ)

無垢(むく)な魂を抱えた目の前の“神獣”の“化身”は、さらに強大な『力』を内包しているはず。
彼らの“主”たる自分はそれを踏まえて行動をし、発言をしなければならない──。

咲耶は目を閉じて、息をついた。

「……和彰。お願いがあるんだけど」

ふたたび和彰を目に映して告げれば、和彰は黙ってうなずいてみせる。
咲耶は、美穂から聞かされたことを胸に、自身の覚悟を決めるため、口を開く。

「いまここで……私に“神獣”の姿を、見せてくれる……?」
「──……分かった」

予想外の『願い』だったようで、和彰はほんの少しとまどった様子を見せたものの、すっと立ち上がり、袿に手をかけた。

するりとはだけられた衣から、和彰の白い肌が徐々にあらわになり、咲耶の目を奪う。
ほのかな灯りに映しだされる、肩と鎖骨。ほどよくついた筋肉がうかがえる二の腕と胸板。

(っていうか、女の私より色っぽい脱ぎ方やめてよ……)

和彰と『親密』になったとはいえ、理性が全面に出ている状態では正視しづらかった。咲耶は、やや視線を外す。

“契りの儀”のときは、まだ幼獣だったためか、すぐに戻る(・・)体勢になっていたが、いまの和彰は、そこでようやく自らを抱くように身を震わせる。

──まるで、咲耶の視界がゆがんだかのように感じさせて、現れる、白い虎の“神獣”。
室内に姿を現した優美な獣は、肢体の重さを感じさせる足取りで咲耶に近づいてきた。

がっしりとした前足をそろえ、後ろ足を縮ませる。しなう(むち)のような尾が、身体に添った。

薄明かりでも、そこだけ輝くような白い毛並みに映える、薄い黒の(しま)模様。

冴え冴えとした青い瞳が、咲耶をまっすぐに見つめる。咲耶の内側で響く『声』と共に。

『これで良いか』