百合子は毎日、部屋の中に籠って過ごしながら、お父さんとお母さんが不仲になった原因は自分だと思っていた。


自分があの顔のない女の人に怯え、学校に行けなくなったから、お母さんはおかしくなってしまったのではないか?


お母さんがおかしくなってしまったから、お母さんとお父さんは、不仲になってしまったのではないか?


百合子も本当は、部屋の中から出て、学校に行きたかった。


でも、部屋の外に出ようと思うと、どうしてもあの顔のない女の人を思い出して、百合子は部屋から出る勇気が湧かなかった。


自分の記憶の中から、あのおぞましい顔をした女を消し去りたい。


あの日の恐怖を記憶から消し去りたい。


百合子は、毎日、代わり映えのない部屋の中で、同じことばかりを考えていた。


もしもあの日の記憶を消せたなら……。