やっと明日、退院できるという絹子の晴れやかな気持ちに水を差したのが、上田という若い看護師の言葉だった。


〈 寺田さんの病室に、お見舞いに来た人がいたんですよ 〉


〈 若い女の人でしたよ。

長い黒髪で、真面目で、優しそうな顔をした…… 〉


〈 ああ、そういえば言ってました。

確か、彼女の名前は……、田所光江 〉


絹子は、その田所光江という名前を忘れることができなかった。


絹子は以前、小夜子が言っていた言葉を思い出していた。


〈 お母さん、その人がお見舞いに来るはずはないわ 〉


〈 だって、その人は、もう死んでいるのよ! 〉