完全に固まった私に、チハルはずっと、温かな眼差しで私を見る。

そうして、チハルの方が先に動いてくれて、私の目の前のお皿をひょいと持ってくれた。


「あ……ありがと……」
「うん」


――もう、もうっ。
あんなふうに止まっちゃったら、絶対変に思われるって!

これからいつまでか、はっきり期限がわからない同居をするっていうのに、序盤からこんなんじゃ、先が思いやられるよ。

だけど……だけど。

あんなに綺麗な男性(ひと)が目の前にいたことなんかないから、動揺するのも仕方ないじゃない!


雑念をぶちまけてそれを無くすように、ぎゅっとクロスを握ってテーブルを拭く。

後方で、ガタン、とシンクに食器が置かれた音が聞こえて、どこかその距離にほっと胸を撫で下ろした。


――のも、束の間。


「ぼく、コウじゃなくて、ミカのオヨメサンでもいいかな」
「は、はぁ?! 大体その場合“お嫁さん”じゃなくて“お婿さん”だし!」


いや! 待って! そういう問題じゃないでしょ、自分!


変な訂正を口走りながら、振り向くと長い足が目の前にすでにあって。


「そっか。じゃ、セイジに愛想つかしたら、そうしようかな」
「ん、なっ……」
「――なんて、ね」


――完全に遊ばれてる。


さっきの天使のような笑顔じゃなくて、今度はズルイ顔。


「もう!!」
「あはははー!」


それでも、やっぱり賑やかな笑い声が自分の家から聞こえるのって、どこかうれしく思っちゃう。

こんな、時間が長く、どんよりとしそうな気持ちのときは、特に。