「アホか。どうせこれからも出入りすることの方が増えるんだから」


ぐしゃっと頭を撫でられた。


「それとも何か?ずっとベランダ(ここ)だけで会うつもりか?」
「えっ…」
「風邪ひくのはお前だろ」


確かに過去風邪をひいて迷惑は掛けたけど!

そんなことを思い出して口を噤んだ。


「兄弟相手にずっと敵意むき出しなんて出来るわけねぇだろ…」


また呆れた口調で髪を掻き上げて聖二が言った。


そうだけど…でも、少しくらい心配してくれたって。
そういう細かいところが、自分との気持ちの大きさの違いかと思っちゃうところなのに。

…でも、こんな小さいことを気にしてるのがダメなのかな。


すると、聖二がまた手を伸ばして私の髪を軽く引っ張った。


「一度しか言わねぇぞ」


その低い声が目の前で聞こえてドキンと大きく胸を鳴らす。


「俺の隣にいろ」


その短い言葉に眩暈を起こしそうになる。

綺麗な顔立ちの男に、低く甘い囁きを受ける。
そんなことされたら立ってるのがやっと。


「それだけ約束すれば、別に俺はなんとも思わねぇっつってんだよ」


あーもう。
この男、わかっちゃいない。

普段から優しい浩一さんとか、いつも真っ直ぐ偽らない三那斗とか、策略家の孝四郎くんとか。

あの三人が、仮に同じ事を言ったとして。

それと比べて、聖二という人間から言われたという事実が凄すぎる。

それくらい、聖二が言ってくれたということに意味がある。


「―――そんなの、いまさら約束するまでもないでしょ」


私は聖二を睨んだ。
でも、きっと顔は赤い。


「私が先に好きになったんだから!」