「ああ、ごめん。でも、よく言ってたよ、そうやって」
カバンをダイニングテーブルの椅子に置いて、リビングを改めて見る。
テーブルの上に散乱したトランプ。
それを囲うように座ってるのは孝四郎、チハル、アキラちゃん……そして聖二。
だけど、テーブルにあるグラスは5個だ。
「ええ? そうなの? チハル!」
「んーたぶん」
「もう! 本当チハルは頼り甲斐がないわねっ」
兄であるチハルに強く出るとこは、あの頃のまんまだな。
そう思って胸の内で笑いながら、でも、おれの意識は5個目のグラスだった。
「三那斗は?」
おれは敢えて「美佳ちゃん」と言わず、そのグラスに視線を向けて聞いた。
それに答えたのは予想通り、孝四郎。
「三那斗は練習でしょ。今日も夕方じゃない? これは美佳の。さっきまでいたんだけどね」
「……あー、なんか、寝不足みたいで。『寝る』って言ってたヨ。ぼくが朝付き合わせちゃったから」
孝四郎の視線に応えるように、続きはチハルがそう説明した。
「『付き合わせちゃった』?」
「あ、うん。ぼくもphone mobile欲しくて」
そういうことか。具合が悪いわけじゃないなら、そっとしておいた方がいいな。
「そっか。あ、お昼食べてく?」
「Wow! うれしい!」
アキラちゃんが両手を合わせて喜んで、またカードを持って楽しそうに笑ってた。
昨日に引き続き、一抜けした様子のチハルは、キッチンに立つおれの横に来てぼそりと言う。
「コウ。ぼく、ちょっと仕事の準備あるからお昼エンリョするね」
「え? ああ、そっか。頑張って」
「アキラに合わせてたら、たぶん夜までになりそうだから」
「え」
対面キッチン越しに、アキラちゃんの横顔を見る。
まー確かに。あの様子だと、なかなか終わらなそうだ。
「じゃあ、またね」
そう言ってチハルは静かに家を出て行った。