「ところで、気になってたんじゃない?」
「え? なにを…」
「チハルの言ってた、“変わる前の聖二”」
「‼」
そのまま耳元で続けられたその言葉に、私は硬直した。
そんな姿をみて、浩一さんは苦笑して言う。
「聖二みたいな、ちょっとミステリアスなタイプだったら良かったのかなぁ、おれも」
「え、え、え…」
「なんてね」
意味深なセリフと笑み。
そんな浩一さんに心拍数が上がりかけた時に、反対側に人の気配を感じてドキッとする。
「――今日は?」
「へっ⁈ き、今日? ポテト、サラダ……」
浩一さんへの緊張なんて、なくなるくらい、全神経を持っていかれる声が左側から聞こえてきた。
それに慌てて返事をして、回れ左をする。
すると、なんでか不服そうな顔して聖二が私を見降ろしてた。
え…? 私、なんか変なこと言ってないよね?
もしかして、チハルと一緒に来るなんて図々しかったかな…。
聖二の顔色を窺うように、チラッと目を合わす。
次の瞬間、思いがけない聖二の言葉が聞こえてきた。
「違う。今日のお前の予定」
「私、の…⁈」
それって、それって…!
私の勘違いじゃなければ、“特別”な誘いだよね⁈
私は上ずりそうな声を、必死に抑えながら返事をする。
「べ、べべべつに! なにも!」
上ずりはしなかったけど、思い切りどもってしまった…。恥ずかしすぎる……。
涙目であろう私の目と目を合わせた聖二は、私にしか聞こえないように笑い、口角をつりあげる。
「そ。じゃ、あとでな」
なにが起こってるのか未だ信じられない。
聖二が、こんなこと言うなんて!
「全く…わざわざおれの前で話すことか?」
「わざわざ、場所選ぶことないだろ。家なんだから」
「はいはい」
「兄貴こそ、余計なこと言うなよ」
「『余計なこと』?」
「こいつに」
ぽんぽんと浩一さんと聖二が二人で会話をして、気づけば二人の視線を受けてる私。
『こいつ』? 私に? なにを?
そう思ってたら、聖二が浩一さんに目で何かを訴えてる。
「ああ! 小さい頃のお前の話、か」
その視線を受けて、聖二の言いたいことがわかった浩一さんが答えた。
そして浩一さんは、私をみて、にっこりと笑う。
「聖二はね、」
「…兄貴ー…」
「Ehi,(ねぇ)ぼくを忘れてない?」
そういって、気づけば対面キッチンの枠から身を乗り出すようにチハルが入ってきた。