ガラリとベランダの戸が開いて、サンダルを脱いで部屋に戻ってきたのは聖二だ。

聖二、やっぱりいたんだ!


「セイジ?」
「あ? ああ。チーちゃんか」
「それ。コウにも今言ったけど、その呼び方変えてー」
「めんどくせぇな…」


深い溜め息ついて、聖二がチハルの前で立ち止まる。
そして正面にいる、キッチンの中の私と目があった。


うわー…。なんか、ドキドキする。
私、なんで未だに聖二には慣れないんだろう?

ジッと見つめられると、聖二しか感じられない。


まるで金縛りにでも掛けられてるように、私は指一本動かさずに聖二を見つめ返していた。

お互いに何かを言うわけでもない。
その空間に、チハルの声が割って入ってきた。


「セイジ、なんか変わったね!」
「……自分じゃわかんないけど」
「全然チガウよー」
「小学校あがるか、あがらないかくらいのときからなら、当然変わるだろ」
「mh…でも、コウはすぐわかったよ?」


チハルと聖二の会話を聞いて、思う。

昔の聖二って、どんなだったのかな。

今と違って可愛いかったのかな?
それとも泣き虫とか?

色々想像してみるけど、どれも今の聖二からはしっくりこないな。


「美佳ちゃん」
「ぅえ⁈ あ、はっはい!」


妄想途中に浩一さんの声が近くで聞こえて慌てて返事をする。


「あ、やっぱり聞いてなかった?」
「え? あ…あの、ごめんなさい…なんて?」
「ふふっ。ううん、いいよ。美佳ちゃんにサラダ担当してもらっていい?」
「えっ…」
「前に言った気がするけど、幸四郎と話したことあるんだよね。『美佳ちゃんのポテサラは母さんの味に似てる』って」


…そう言われたら、そんなこともあった気がする。
けど、あのときはなにも考えないでいつも通り作っただけだし…何より今日のポテサラは“特別”な気がして、プレッシャーだ。


「あ、ごめん。別に同じように作れなくてもいいんだ。おれが、美佳ちゃんのポテサラ久々に食べたい」


そっ、そんなこと、浩一さんに言われたら! 断れるはずないよ!


「…わかりました」


私が赤い顔して俯くと、浩一さんは優しい声で「ありがとう」と耳元で囁いた。