その触れるか触れないか程度のキスの余韻を感じながら、前髪をわけもなく上から下へと繰り返し撫でる。


今のは深い意味なんてないはずっ。
そう!挨拶よ、挨拶!おやすみの!!


誰もいないリビングをぐるぐるとした流れで、そのまま私も自分の部屋へと戻る。
ぽふっとベッドに座ると近くのクッションを抱きしめるようにして大きく息を吐いた。

――ピリリ。

ポケットの中から振動と共に音が鳴る。

やっと気持ちを落ち着けていたのにその音でまた無駄に心拍数が上がっちゃったじゃない!

ドキドキとしたまま携帯を手に取り、確認する。
メールの着信音だから、と完全に私は油断していた。

――だって、〝まさか〟とすら思う余地もなかったから……。


受信メールを見た私は、その画面に目を落としながら停止する。
たった一行のメールを何度も読み返すけど、心がついて行かない。

けれど、その内容をどうにか理解した私は、逸る気持ちのまま部屋を飛び出した。


「……寝てなかったのか」


リビングを通過して、向かった先はいつもの場所。
そこで見つけた姿に、開口一番にそう言われた。

柵に身体を預けて少し気だるそうにした姿はいつものまんま。
でも、今夜違うとすれば、手にしてるものが煙草じゃなくて携帯電話だということかもしれない。