「ダイジョウブだよ。ぼくも気まぐれだからね。イタリアに帰ってもすぐにまたどっか行くかもしれないし。そうなってたらミカを振り回してたかも」


敢えて明るく努めてくれてるのがわかるから、余計に胸が詰まって。
声がなかなか出なくて、ただ必死に首を振っていた。

すると、スッとチハルの長い手が伸びて来て、そっと触れるように私の背中にまわした。


「……よかったネ」
「……ん」


この前みたいに力強く引き寄せられるものじゃなくて、本当に軽い抱擁。
その証拠に、私の前には空間があって、チハルの身体には触れていない。

その腕の中で俯いて小さく返事をすると、


「ぼくが昔からずっと日本にいたら、どうなってたのかな……」
「……え?」
「――なんでもない!」


ボソッと呟いた言葉に顔を上げると、チハルはニッと口角を上げて、いつもの調子で言いながら身体を解放してくれた。


「じゃあぼく、寝ようかな」
「あ……うん」


そうしてそのままチハルが自室へと向かい、ドアノブに手を掛けるのをただ黙って見つめていた。
すると、しばらくそのままでいた後にその手を離し、再び私の元へとやってくる。

驚いて目を大きくしてチハルを見上げると、避ける間もなくチハルの顔が近づいてきて――……。


「……おやすみ、ミカ」


さらりと髪を撫でられ、綺麗な顔で笑うとそう言って行ってしまった。
……おでこに軽いキスを残して。