「べつに。俺んちはあの通り賑やかだし。気にしてない」
「あの時の言葉も、ごめんなさい。遅かれ早かれいなくなるだなんて……」
「……いや」
「……あのコ……ミカってバカね」
突然出てきたアイツの名前に、思わず足を止める。
でも、アキラの「バカ」って言い方に悪意は感じられない。それは今のアキラの顔をみてもわかるものだった。
「人に感情移入しすぎよ。同情の域を越えてる」
失笑するようにアキラは漏らした。
……その意見、俺も同調。
いちいちアイツは人の事情をまるで自分のことのように受け止めるものがある。
あんなん毎回やってたら、心が疲れて仕方ないだろ。
……とか言いながら、それに俺も助けられたクチだけど。
「それだけ……やさしいってわかったから」
「え?」
「……だから。あのコならセイジを支えてくれるんじゃない?……まぁ、別にその役わたしが引き受けてもいいんだけどねっ」
早口で言う辺り、アキラも照れみたいなものがあるんだろう。
そう言っていると目の前はもう駅で。
アキラは一歩前に出たあと振り向いて言った。
「ありがとうセイジ」
「ああ」
「……また、遊びに行っても……いい?」
カバンを持つ両手がもじもじと動いている。
視線も落ち着きなくて、あれだけ強引だったアキラを思い出して、目の前のアキラとのギャップに思わず小さく笑った。
「ダメって言うわけないだろ。でも、三那斗やアイツの英語、みさせられるかもしれないけどな」
俺の言葉に顔を上げたアキラはとてもうれしそうに笑顔を浮かべた。
アキラと別れて元来た道を戻る。
ポケットの携帯を取り出してみると、時刻はもう22時半になりそうだ。
家に着く頃は23時前、か。
……アイツ、さすがに帰ってるだろうな。
夜空を見上げてそんなことを思い、心なしか足早にマンションへと戻る。
予定よりも5分くらい早く家には着いたけど、玄関に入ったら案の定アイツの靴は見当たらなかった。