まだ生ぬるい空気に、シャワーあとにもかかわらず、ほっといたらまた汗をかきそうだ。

ポケットに手を突っ込んで無言でいると、隣にいたアキラが口を開く。


「……セイジはどうしてわたしが日本にいる理由、知ってたの?チハルから聞いたの?」


横を見ると、アキラは足元を見たままで。
だから俺も前だけ向いて、その質問に答える。


「いや。駅前の学校って聞いてたの思い出してアキラの会社に電話しただろ、この前。そのときに電話取った人がつい口を滑らしてた。自分は親戚みたいなモンだけど、アキラはいるかって聞いたら、『お母さんの件ですか』って返ってきたから」


明るい声でそう反応されて、それでアキラが本当はまた母親に会いたいって思ってるってわかった。


「ああ。宍戸さんだったな、電話繋いでくれたの。彼女、すごく親身になってくれるのよね」


「まったく」とかいいながら、ぶつぶつと言うアキラは全く怒ったりしてない。
むしろ少し柔らかくなったと感じるのは、吹っ切れたからだろうか?


「まぁ、ね。別に『絶対会いたい』ってわけじゃなくて……ほら……なんていうか……『会えたらラッキー』的な?」


ごまかすように笑いながらアキラは話す。
そんなアキラを見ていると、不意に顔を上げられて視線がぶつかる。


「……っあ!ご、ごめんね。セイジはその……もう……会えない、のに」


俺の視線を誤解させたみたいで、アキラは慌てて謝る。

いまさらそんなこと気になんかしないのに。
そんなふうに、少ししおらしい顔をしたときには、少し昔の面影があるように見える。
ガキの頃のアキラを思い出し、今のアキラにもやっぱりその雰囲気が残っている、と。