アキラにはアキラの心があって、私には私の気持ちがあって。
でも、私はつい、聖二のことばかり考えてしまってたから、アキラ自身のことを感じようともしてなかった。

チハルの妹で、綾瀬家の幼馴染で。
離婚してから会えてないお母さんに、いつか偶然出会えることをほんの少し期待して日本で語学教師をしているアキラ。


「せっかくだし、時間あるならみんなでご飯……食べませんか?」


なんて、そんな提案、私がすることじゃないっていまさら思うけど言っちゃったし。
きっと隣も『イヤだ』とは言わないはずだし!


頭の中でそんな言い訳並べながら、立ち止まったままのアキラを見上げる。
すると、アキラの眉間にますます深い皺が出来ていく。


「……変な人ね」
「えっ?へ、変?!」
「変よ。だってそうでしょ?きついこと言ったわたしを食事に誘ってまで引きとめるなんて」


そ、そう言われたらそうなのかなぁ?
でもなんか、急に口から出てきちゃったわけで……。

現金なのはわかってる。
聖二とうまくいったからアキラと素直に向き合えるだなんて。

ズルイって言われても仕方ない。
だけど、それでも、今アキラと一緒に居て思っちゃったんだもん。


「……もっとアキラと話してみたい」


アキラと綾瀬家の思い出とか、アキラの今までの生活とか。
ひとりでイタリアから離れて日本に戻ってきたときの話とか……そういうの、きっと身近で聞けるような人いないし。


「はぁ?!なんでそうなるのよ?」
「な、なんとなく」
「……ホント、変わってる。チハルも相当もの好きね」


最後の言葉はどうにも返事を返せない。
もの好きと言われた原因の私は、なんだか否定することも出来ず……。


「これじゃあ、セイジも笑うのを忘れるのも納得だわ」


盛大な溜め息と共に、言われるがままの私。
だけど、アキラはくるりと方向転換して、またソファに腰を下ろすとお茶に手を伸ばす。

まだ慣れるまで時間はかかるとは思うけど、ほんの少しアキラに近づけた気がして、自然と笑ってしまった。