チハルはいつの間にそんなことを言ってくれてたんだろう。
あの普段の底抜けに明るいキャラの裏で、そうやって心配してくれていたことを改めて知ると、胸がきゅ、っと締めつけられる。
あんなに力づけてくれたり、気を遣ってくれたりして。
だけど、私……昨日、あのスタジオからチハルにはまだ会ってないし、連絡も出来てない。
伝えなければならないことは山ほどあるはずなのに。
「兄妹で玉砕なんて、ほんと、ダサイわね」
「……あの、アキラの……その、〝感情〟って……」
自分(アキラ)の感情。
確か昨日、外でアキラに会ったとき、聖二が言ってた。
『大切な存在だから、日本(ここ)で働いて探してんだろ?』って。
「……別に、大したもんじゃないわ。ただ……ただ、小さい頃の記憶っていうものが薄れてるはずなのに……〝お母さん〟の思い出がいつまでも残ってるから。日本にいたら、偶然にでも会えたりするのかな、ってちょっとだけ思っただけよ」
……そうか。
あんなことを言ったのは、自分のお母さんがなかなか見つからなくて出た言葉だったんだ。
それでちょっと投げやりっていうか、感情的になっちゃって……ってことだったのかもしれない。
「……だから!そのことをあなたに伝えにきたの。じゃ」
アキラは言い終わらない前にソファの上のカバンを手にして帰ろうとした。
「えっ、もう行くの?」
「……なによ。わたしと二人でなんていたくないでしょ」
「え?いや、べつに居たくないとは……」
ただ、緊張する……っていうか、どう会話すればいいのか戸惑うだけで。
同じ女性だけど身長差があるアキラはわたしを見下ろして、猫のような目でじっと見てくる。