「……でも、あの言葉は……訂正するわ」
「……『あの言葉』……?」


え?一体どのことを指してるんだろう?
全然ピンとくるもんがないんだけど、聞き返してもいいのかな……。それともここで聞き返しでもしたら、またなんか言われちゃう?


ぐるぐると心の中で押し問答していると、アキラがスッとソファを立ってベランダ側に歩いて行く。
そして外を眺めながら独り言のように言う。


「前に……〝親は遅かれ早かれいなくなる〟……って」


……ああ!
そのこと!確かにあの言葉は本当に許せなかったけど……。でも、なんで私?
あ、でも元々最初は聖二を尋ねてきてたんだっけ?いやそれでもやっぱり、私じゃないような……。


「チハルに怒られた。『自分の感情を持ちだして、人の家の事情に当てはめるな』なんて……たまにそういうまともなこと言うのよ、チハルは」


そうなんだ……。
チハルってやっぱりお兄ちゃんなんだ。優しいだけじゃなくて、きちんと怒るときは怒ったりするんだ。


チハルに内心感心していると、くるりとアキラが振り返る。
油断していたわたしは、まだほんの少し構えてしまう。


「『セイジが傷つくことは、ミカも同じか……それ以上に傷ついてる』」
「……え?」
「チハルがそう言って怒ったのよ」
「セイジ(本人)以上に傷つくわけないじゃない、って反論したけど、即答で言い返されたわ」


「ふ」と、失笑するようにアキラは髪を掻き上げる。
そして、少し遠くを見つめるように、きっとその時のことを思い出しながら……続けた。


「『ミカはそういうコだ』ってね」