午前授業続きだったあとのフル授業はすごく長く感じた。

なんとか一日乗り切って家へと帰る。
バスを降りてマンションへと歩いていたら、後ろから駆け寄る足音が近づいてきた気がして振り向いた。


「みーかっ」
「ぅわ!こ、孝四郎くん!」


ものすごい勢いでやってきて、目の前で足を止めると同時に私の手をぎゅっと握る。


だっ、だから!この手はなに!
孝四郎くんて、こういうこと素でやるから注意していいのか迷っちゃうんだよー!


「あの、ちょっと……手を――」
「本当よかったよ」
「……な、なにが?」


手はしっかりと握られたまま。
少し上目づかいをした孝四郎くんが、薄らと口元に笑みを浮かべる。そして、ちょっとだけ、淋しそうにも感じる表情でこう言った。


「美佳が、アキラや聖二にぃに遠慮しちゃうんじゃないかって思ったから」
「え?!」
「美佳はいっつも人のことで頭いっぱいになるタイプだからね。気付かないうちに、自分を犠牲にしちゃいそうで」


な……なに、それ……。
私って、人からはそういうふうに見えるの?
だとしたら、今日三那斗に思ったことと同じようなことを思われてるってことじゃない。


「まぁ、もしそうなっちゃってたら、それはそれで僕にとってはオイシイ流れになったかもしれないんだけどねー」


手をするりと離し、頭の後ろで組むようにしながら孝四郎くんが歩き出す。
ぽかん、と孝四郎くんの背中を見てると、ぴたりと足を止めてくるりと私に向きなおした。


「やっぱりアキラより美佳が家族になる方がよかったし。アキラには悪いけどね」