……なんだって……?


夜風が強く吹き上げる。
一瞬で舞った自分の髪が、聖二への視界を妨げる。

慌てるように髪を直しつつ聖二を見ると、いつの間にかいつもと同じように柵に背を預け、月の光をその背に浴びながら――。


「……笑った……」


それはもう。
意地悪な感じでも、仕方なくでもない。
例えるなら……そう。今まさに照らされてる、月の明かりのように、柔らかな微笑み。


「……は?」


聖二の反応を見る限り、本人も気付いてないみたい。

まるで、こっちの心まで満たされるような聖二の笑顔。
この顔を一番に見れる特権が、私にはあるってことだよね……?


「うん、きっとそう」
「なに言ってんだよ、さっきから」


気付けばその笑顔も消え、いつもと同じ調子の言葉と仏頂面。
それでも、その〝日常〟すらもうれしく感じる私は、幸せボケにでもなったのかもしれない。


「セイジー」
「聖二兄っ。いー加減、参戦しろっ。力貸してくれ!」


黙って視線を交錯させているところに、そのいい雰囲気をぶち壊すかのように隣から声が聞こえる。


……もう!チハルと三那斗ったら!


「はぁ」と小さく溜め息を吐く。


「呼んでるよ。戻ったら?」


まぁ、いつも大体このくらいの時間だけだし。ちょうどいいのかも。
お互いに風邪ひいても困るしね。


今日は昼間も一緒にいれたのに、まだまだ一緒にいたいって思う。
それが、願わくばコイツもちょっとくらい、同じように思っていてくれたらな、なんて。