「た……ただいまぁ……」


自分の家だというのに、まるで泥棒のような動きでそーっと足を踏み入れる。
というのも、チハルがいるかもしれない、と思ったからだ。


チハルへの返事は既にしたようなものだけど、今日、あんな形で別れたからなんだか気まずくて……。

部屋の様子を窺って見るけど人の気配はしないみたい。
ホッと胸を撫で下ろすのと同時に、ガチャガチャ、と玄関から音が聞こえて心臓が止まりそうになる。

恐怖にも似た驚きで、涙目になりながら玄関を見た先に現れたのは……。


「あらっ。なにしてんの、そんなトコで」
「お……お、かーさぁん……」


腰が抜けた私はずるずると壁にもたれかかりながら尻もちをつき、弱々しい声でそう言った。


「鍵かけ忘れてるのかと思っちゃったわ!」
「私そこまで抜けてないよ……」
「だって!今日あんなふうにいなくなって、まさかもう家にいるだなんて思わなかったんだもの」


そういうお母さんの目は、完全に冷やかしの目。

そうだよ。忘れてたけど、今日あの場にはお母さんもいたんだった……。
よりによって親にあんな場面を見られるだなんて……!

恥ずかしすぎてどう反応していいのかわからないままいたら、お母さんが私を通り越してリビングへといく。
その背中をただ見ていると、突然くるりと振り返られてドキッとした。