本能的なものだったのかもしれない。
コイツをここに連れてきたのは。

両親に、〝家族みたいなヤツ、連れてきた〟って報告するために。
それと、そう思えるほどのヤツなんだから、もう余計なことは考えないで〝離れない〟って確認するため。


俺が立ち上がって避けると、美佳が遠慮がちに俺の元に来て、しゃがみこむ。
そしてなにやらひとりぶつぶつと言いながら、一所懸命心を通わせようとしてるみたいだった。


「……そんなにしっかり挨拶されたら、今日の俺なんてひでーな」


手を合わせる真剣な姿が可笑しくて、思わず「ぷっ」と笑いを零して言ってしまった。


「え?なに?今日?」
「……いや。さて、もう戻るぞ」
「また!肝心なとこいっつも言わないんだから!!」


頬をめいっぱい膨らまして、美佳が階段を降りる。
最後の一段で、足を捻らせてバランスを崩したのを咄嗟に手を伸ばし助けてやる。


「……っあ。ご、ごめん」
「……履き慣れてねぇ靴だからな」
「なっ、なによ!どうせ似合わないですよーだ!」


顔を赤くしてムキになって言い返す美佳が可愛い。
そういうことを素直に言ってやればいいんだろうけど……やっぱそこまでは無理だ。

その代わり――。


「……えっ」


美佳の戸惑った声が聞こえてくる。
そのくらい、意外なことをしてるんだと俺自身も思う。


「早くしろ」


手の所在に困った俺は、ぶっきらぼうに言った。

不器用に差し出した俺の手を困惑した顔で取った美佳は、そのあとちらりと盗み見たときにはものすごくうれしそうな顔をしていた。


……なんだよ。俺だって笑わせられるんじゃねーか。


こんな些細なことで安堵して、手のぬくもりに癒やされる。
たったこのくらいのことでそんなに笑ってくれるなら、何度でも手を差し伸べたいと自然に思いながら車に戻った。