「お前の言った、どんな時でも一緒にいたい相手……っつーやつが……どう考えても、今の俺には美佳しかいなかったんだよ」


不貞腐れるような口調。
だけど、それって、照れ隠しなんでしょ?


「……大体、前に言ったはずだろ」
「なにを?」
「……2度も言えるかっ」


逆ギレされても、今回、私は全然平気だ。


「『俺のそばにいろ』……ってやつ?」
「――――!あ、あほか!口に出すなよ、そーいうの!」
「図星なんだぁ」
「……っ、お前……!」


優位に立つことなんかないから、ちょっと調子に乗ってしまった。
そのテンパった顔が見たいがために、夢中で聖二の顔を覗きこんでしまったのだ。

聖二の懐に頭を入れるような状態。
必然的に、今までで一番近い距離。


キッと急に停車した重力を全身で感じ取ると、気付けば聖二の黒い眼が私を見下ろしていて。
少し怒ったように見える目。でも、その視線から逃げられなかった。


「……運転中。死にたいのか、お前は」
「ご、ごめ――」


慌てて正気に戻って謝ると、まるでその言葉を最後まで言わせないように。

聖二から、キスされた。

奪われるようなキスはほんの数秒で。
すぐに唇を離されると、ゆっくりと目を開ける。

焦点があったときに、怒ってるでも、笑ってるでも、照れてるでもない顔の聖二が小さく唇を動かす。


「誰と笑っててもいいけど。その顔は見せんなよ」
「……え」


すると、今度はさっきよりも強く唇を重ねられる。
後頭部に添えられる聖二の大きな手。まるでここに押し倒されてしまうかのようなキスに、聖二の腕にしがみつくのがやっと。

下唇を食まれてようやく解放されると、頭はボーっとしてしまっていてなんにも考えられなかった。


思考も身体も停止してしまった私と違って、聖二はなにもなかったかのような顔でまたハンドルを握ると、そのまま車をまた走らせた。