ぼくは一人、マンションに向かってた。
数時間前、セイジが突然姿を現したのを思い出しながら。

ぼくだって、簡単にいくとは思ってなかった。
ミカがぼくを選ぶだなんて、そんな都合のいい展開までは……。

でも……正直、それを期待していたのかもしれない。


マンション前について見上げると、「ふぅ」と溜め息をついて、重い足取りで玄関を抜ける。
エレベーターに乗り込み、上昇する中で、あの二人は今どこにいるのかな?なんて考える。
するとあっという間に目的階に辿り着き、ぼくはその地に足を降ろした。

コツ、と廊下に足音を響かせて歩くと、前方になにやら人影。
座り込むようにしてあるその人影は、アヤセ家とミカの家のあたりにある気がする。

不審に思って目を細めながらゆっくりと歩き進める。
ようやく逆光で見えなかった顔が見えたときに、思わず声を漏らしてしまった。


「は……?なんでこんなとこで……なにしてんの……アキラ」


アキラらしからぬ行動。
こんなとこでしゃがみ込んだりなんかしないタイプのクセに。

ぼくが声を掛けると、ゆっくり突っ伏していた顔を上げた。


「……チハル」


声もアキラじゃないくらい、小さなもので、初めは怪訝な顔をしてたぼくもさすがに妹の身を案じて手を差し出した。