最後のそのひとことは、薄らと耳を赤くして、目をふいっと逸らされた。
その様子で、コイツが〝わかってて使い分けた態度〟じゃないっていうことがわかってしまうから。

やっぱり、苦手なはずの〝自分の表現〟を、こんなふうに頑張ってしてくれてるって思うとどうしようもなくうれしくなってしまう。


「アキラだって、母さんと過ごした時間は笑ってたことばかりじゃなかっただろ。それでも大切な存在だから、日本(ここ)で働いて探してんだろ?」
「――っな、なんで、そのことっ……」
「大事な存在は、どんな時間を一緒にいても大事だと思う存在(相手)だと俺は思う」


いつになく饒舌な聖二に圧倒されるように、私はその場にいるのがやっと。
アキラは聖二に言われたことが衝撃だったようで、珍しく固まったまま。

すると、聖二はまた私の手を取って、アキラを置いて歩き出す。
だけど、数歩歩き進めたところでピタリと足を止め、前を向いたまま、聖二がアキラに向かって呟いた。


「……特別(それ)が、コイツだから。ゴメンな」


風にかき消されるくらいの小さな声だったけど、私にはちゃんと聞こえてしまった。
アキラを見ると、アキラも聖二を見てたからきっと聞こえてたと思う。

再び歩き始める聖二に連れて行かれる私は、ずっとずっと、その言葉を反芻していた。