チハルに対しての、なんともいえない敗北感。
自信がない俺は、隣の家に向かうどころか、その場からなかなか動けない。


「聖二」


兄弟の視線を受けてた俺を呼んだのはアニキ。
だけど、今は誰になにを言われてもこの感じからは抜け出せそうになくて。


「……部屋貸して。残った仕事する」
「聖二!」


アニキの言葉や、三那斗と孝四郎の痛い視線から逃げるように。
ひとりきりになって、今までの自分じゃ考えられないような心境になっていることに驚き、同時にその対処の仕方に戸惑う。

……こんなこと、前まではなかったような気がする。
どっか諦めたり、真剣になりきれなかったり。
なにが理由でそうなってたのかまでは覚えてない。

女相手に取り乱すなんてカッコ悪いし、縋ったって無駄だと思っていた。
だから前は、それが原因で溝が出来て、気持ちも関係も離れていった。

結局、本当の自分を見せないまま……自分自身もそれを認めないまま。そういう過去を葬り去っては、また同じことの繰り返しをする。……はずだった。

ダサくても冷たくしても、笑ったり怯えたりしないで全部受け止められた。アイツに。
それが思いの外心地よくて、表面では歳上気取って軽くあしらったりしてるけど、本当は俺の方が精神的に支えられてた方だと思う。

自分でも信じたくないけど、あんなガキに……頼ってる部分があるんだ。

――だけど、アイツは?
アイツにとって、メリットといえるようなモンがあんのか……?

現に、俺にはチハルみたい(あんなふう)に笑わせてやることはできない。


アニキの部屋にパソコンを持ち込み一人籠ったが、結局仕事なんか口実で、頭を冷やすのにベッドに横になった。