瞬時に手は解放したけど、きっとなんらかの違和感は感じられたかもしれない。
それでもおれは構わないけど……美佳ちゃんには迷惑かけたかな。


「……ミカ、顔色ワルイね?」
「……え」
「ねぇ?コウ」


美佳ちゃんが驚いた目をチハルに向けている。
そして突然そう振られたおれも、正直不意の登場のチハルにまだ動揺していて上手く切り返しが出来なかった。

すると、チハルはいつもと変わらない笑顔を浮かべて、ゆっくりとおれを追い抜いて行く。


「また寝不足って言ってなかった?ベンキョー頑張りすぎだよ。今日はもう帰って休んだら?ミカ」


静かな風と共に前へ行き、背中を見せるチハルは、あの頃の〝ちーちゃん〟ではない。
当然だけど、チハルも大きくなった。……男になったんだ。


「コウ。ミナト、シャワーから上がったよ。ぼく、ちょっとミカに付き合うから。あとで戻れたらそっちに行くね」


――二度も。
二度も、好きな子をかっさらわれるなんて。

なんて運のない男なんだ、おれは。
いや、運じゃなくて、魅力がないのか……。


「ほら、ミカ。行こう」
「えっ……ちょっと……こ、浩一さん」


眉を下げて困った顔をしてる美佳ちゃん。
ここでおれとチハルが彼女を取り合ったって、なんの意味もなさない。

こういうときにがむしゃらになれないのが、おれの悪いところかもしれない。良くいえば歳の功というやつなのか……。
でも、おれが食い下がってもますます困らす顔をさせるだけなのが目に見えて。

だから、やっぱり肝心な時に一歩下がってしまう。