……なんなのこれ。
悔し涙?アキラに対して?
今まで競争心とかまるでなくて、へらへらと生きてきたような私が。
アキラに負けたって思って、こんなふうになってんのかな……。
たった一軒分なのに、自分ちの玄関まで歩けずに、立ち止まったまま俯き考えてた。
すると、背後で静かな扉の開閉音がしてドキリと肩を上げる。
振り向くのが怖くって、ただその場で息を潜めるように立つ。
……アキラ? 突然逃げた私に、まだなにかあったのかな。
それともチハル? 最近のチハルは偶然にもいつも助けてくれるようなタイミングで来てくれるし……。
それも違うとしたら……。
ドクンドクンと耳元で聞こえるくらいに心臓が騒ぎ出す。
振り向くことも出来なければ、前に足を踏み出すことも出来ない私。
その私に近づいてくる足音に、緊張感がピークに達する。
ふわりと肩に手を置かれると、ゆっくりだけど、自然と顔を振り向かせることが出来た。
俯きがちだった顔を同時に上げてみる。
視界に入ったのは……。
「……そんな顔させるために身を引いたんじゃない」
「――こ……う」
半身を回すと、その瞬間に覆いかぶさるようにして包みこまれた体。
すっぽりと囲われた私は、その胸の中で声を聞く。
「お願いだから、いつも笑ってて……じゃないと……おれ、まだ……」
温かい体温と言葉をくれるのは浩一さん。
予想外だった。まさか、ここに浩一さんが現れるなんて……。