「お。孝四郎か。おかえり」
「……」
「……どうした?」


リビングで寛いでた浩にぃが僕に気付いて声を掛ける。
でも、それに反応しきれないくらいに、まだ胸がむかむかしたままで。

「どうした」と聞かれて、手にしてた荷物を乱暴にテーブルにドサッと置くと、そのままの姿勢で答えた。


「今、チハルに会った」


その言葉を聞いた浩にぃは、きょとん、としたあとに静かに笑って言う。


「ケンカでもしたか?」
「ケンカ……の方がまだマシ」


ケンカもさせない。「僕も」と、ついて行こうとしたのも無言の圧力であしらわれてしまった。
ぎゅっと手を握りしめ、独り言のように言う。


「……僕だって、数Ⅲくらい、みてあげられる」
「数Ⅲ? なに言ってるんだ、孝四郎」


浩にぃに言われてちらりと視線をそっちに向ける。
でも、浩にぃを通り過ぎて奥に横になってる聖二にぃに僕は視点を合わせてた。

ソファの上で足を組み、両手を枕にするようにして目を閉じてる。
その目がゆっくりと開くのを見て、起きてたことを確信する。


僕がこんな苛立ったって仕方ないのに。
聖二にぃは、やっぱりこんなことでも動じずにそうしてられるんだ?
器が大きいと、余裕があって違うね。

今、チハルになにか言える権利があるのは聖二にぃだって言うのに。


それを一言でも言ってやりたくて、どんな言葉にしようか考えているところにインターホンが鳴った。


「誰だろ」


浩にぃが不思議そうに言いながらソファを立つ。
僕は玄関を一度見たあとに、浩にぃに答えた。


「……決まってるでしょ」
「え?」


僕はまた聖二にぃを見て言う。


「――アキラ」