「……あ。できた!」
「どれどれー?あ、ホントだ。ミカ、デキルじゃん」


それから数時間。
初めはチハルも〝カン〟を取り戻すのに大変そうだったけど、やっぱり「得意」と豪語していただけあって、参考書や教科書を見るだけで内容がするすると頭に入ったらしい。

そして、意外なことに、日本語苦手だというチハルの説明が結構わかりやすくて。
今までなんとなく解いていた問題とかが、自信を持って解けるようになった気がする。


「この応用問題できたなら、ここら辺はもうダイジョブじゃない?」
「そう?そうかな。わーなんか達成感!」


ノートから少し離れて、今日の功績を眺めてちょっと満足する。
時計をみたら、いつもは小刻みにしか動いてない針がだいぶ進んでいてびっくりした。


「うわ。もうお昼?さっき朝ご飯食べたと思ったのに!」
「うん。ミカ、集中力すごいね?」
「普段はそんなこと全然ないんだけど」
「そう?ミカはいつも自分の世界に入り込む集中ったらスゴイでしょ」
「チーハールー……それ、全然褒めてなんか、ないんだからねっ」


低い声で言いながら、後ろのソファに座るチハルを睨む。
チハルは手にしていた本を閉じて立ち上がると、手を差し出してきた。


えっ。な、なに?この手は!


目の前の手を見て、チハルをまた見上げる。


「続きはまたあとで。天気いいし、お昼は外でたべよう?」


優しい笑顔での誘いに戸惑っていると、差し出されていた手がさらに伸びて、私の腕を掴んだ。
グイッと立たされて、より近付いたチハルの顔。

や、やっぱり、こんな綺麗な顔の人、見慣れない!
その顔立ちだけでこんなにドキドキさせちゃうんだから、本当すごい武器だよ!

赤くなりそうな顔をどうにかしなきゃと思いつつ。
でも、チハルはそんなことお構いなしで、今度は腕を掴んでいた手で手を握られる。


「いこ」


手を引かれる力は、男の人だ。
為す術もなく、チハルの言われるがまま、私は靴を履いて玄関を出た。