「ミーカ」


醜い嫉妬心を抱えてベッドに座っていると、リビングの方から呼び声がした。

キィと静かにドアを開け、隙間から覗くようにして見る。
すると、ドアの目の前には、すでに着替えも終えているチハルが立っていた。


「……おはよ」
「Buon giorno! ミカ、お腹空いたー」
「自分でテキトーに先に食べたらいいのに」
「えー。だって、せっかくだし、ミカと食べたい」


ストレートに言われると、それがチハルにとっては普通なんだとは頭でわかってても、顔が赤くなる。


「ばっ、ばか。わかったよ、もう。着替えちゃうから待ってて」
「ウン」


パタンとドアを閉めると、姿見に映る自分と目が合った。

……案外、平気そうにみえるじゃん。

鏡の中の自分に心の中で声を掛ける。
本当なら、昨日あのままだったなら、私はやり場のない思いを抱えて、それを消化しきれなくて。
それで、泣くことしかできなかったかもしれない。

もしそうなってたら、こんないつもと同じ目ではいられなかったし、泣き疲れた顔をしていたと思う。

それに、昨日一日過ぎるまで、ずっとベランダのアイツの姿が頭から離れなくて気にしていたと思う。
気にしながらも、そこには行けなかったから。

それも、チハルがずっと他愛ない話を続けてくれたりしたから、ちょっとは紛れて一晩過ごせた。