俯いて歩いてた私を、いつの間にか振り返っていたチハルが優しく抱きとめる。
突然の出来事に、瞬きも出来ずにされるがまま。

チハルの温かい胸の中で、ふわりと腕を回されたままで、チハルの声を聞く。


「アキラの言葉。コウたちだけじゃなく、ミカも傷つけたね。ゴメン」


……なんで、チハルが謝るの。

そう思ったけれど、誰かに優しくされたかったのか、私はそのままチハルの腕を振りほどかずに話を聞いた。


「ぼくとアキラの親は、リコンしてるから。もちろん、父親が引き取ってはくれたけど、男親だし、いるけどいないようなものだったから」


頭上から落ちてくるチハルの声は、不思議と落ち着くもので。

「ぼくはわりと平気だったけど、あの時のアキラには堪えたんだと思う」


でも、言われてる内容が内容で、心から落ち着くことは出来ずにいた。

チハルの説明で、アキラの擁護があった。
その内容は、否定したりすることはない。だって、わたしもほんの少し、似たような感情はあると思うから。

私もいつも一人だったから。

でも、こんなこともしアキラに言えば、『両親揃ってるだけで違う』とかって言われてしまうかもしれない。

アキラのさっき聖二に言った言葉は、そういうことがあったからなんだ。
それでも。やっぱり、ああいうことは言って欲しくないなって思ってしまう。

それに――。


「聖二もそれを覚えてて、なんにも言わなかったのかもしれないよ。ぼくたちがイタリアに引っ越した理由はリコン(それ)だから」


もし、本当に聖二がそれを覚えてたなら。
私は聖二にそれをちゃんと言ってほしかった。
そう思う私って、心狭いのかな……。


そんな自分への嫌悪と、聖二への不満と、アキラへの嫉妬と。
ぐるぐると暗い感情が渦巻いてた私を、チハルはしばらくその手で包んでくれていた。