なんて、美佳だけじゃなく、一度しか見てない美佳の父さんにまで当たったくらいにして。

……要は、余裕がないんだな、オレ。

まぁ、そりゃそうだよな。
なんだかんだ、振られてるわけだし。しかも、美佳は聖二兄とくっついたわけだし。
くっついたばっかで、オレの入る隙なんかあるわけねー……。


「……ちくしょう。なんで聖二兄(兄弟)相手なんだよ」


たった数分にもかかわらず、まだまだ暑い外気の中でのチャリは、汗が流れてくる。
信号で片足をアスファルトにつけ、肩で顔の汗を拭うと、溜め息がオレの口から零れ出た。


聖二兄なんか、どうやって戦えばいいのかわかんねー。
いや、こういうことに、〝戦い方〟なんてないんだろうけど。

全部、野球みたいに、ルールがあって、点数っていう明確な勝敗がつけばわかりやすいのに。
人の気持ちなんて、ただでさえわからないのに、好きとかそうじゃないとかなんて、透明人間と戦うようなもんだろ。


「はぁ……」


力なら、負けないと思うんだけどな。
でも、力づくなんて、当たり前だけど、意味ないことだし。

――だめだ。
予定よりももうちょい、走ってからかえろ……。


そうしてオレは、ずっとずっと遠回りをして、ようやく涼しくなった頃に帰宅した。
もちろん、チハルになんか、会ってねぇ。